2025.10.02

【イベントレポート】AIと人がつくるプロジェクトの最前線 ―実践者が語る現場の変化と工夫―(2025.08.26)

生成AIは仲間か、それとも…?

AI技術が急速に社会へ浸透する現代、プロジェクト実践の現場もまた、大きな変革の波に直面しています。AIをいかに活用し、これからのプロジェクトをどう導いていくべきか。そんな問いに向き合うべく、プロジェクトの第一線で活躍する3名のプロフェッショナルによるトークイベントが開催されました。

Good Project Associationの清水さん、株式会社ロフトワークの川原田さん、株式会社Konelの荻野さんがそれぞれの視点から「AIとプロジェクト」について語った本イベント。
AIがもたらす未来への期待と、人間ならではの創造性のあり方を深く考えさせられる、刺激的な議論が繰り広げられました。


『アフターAIのプロジェクト実装&推進』(Good Project Association 清水)

最初に登壇したのは、一般社団法人Good Project Association(GPA)の清水さん。
清水さんは「AIが今よりもっと当たり前になった未来、「プロジェクト環境やプロジェクト実践者の役割はどう変わるか」について2つの仮説を語りました。

1. 人材は「機能」にシフトしていく
近未来ではAIエージェントがタスクごとに作業を自動化することで、仕事(タスクの束)は機能別に切り分けられていきます。その結果、会社や組織への所属ではなく「何ができるか」という機能/役割で人がアサインされるようになり、プロジェクトベースの働き方がさらに加速するのではないかと語ります。
清水さんは「そうなると、プロジェクトを進めてハブになること自体が一種のハードスキル化していくのではないか」と述べ、専門的なスキルを持つ「プロのプロジェクト実践者」のニーズが増加するという未来像を示しました。

2. 計画する力は「コモディティ化」していく
AIの圧倒的なシミュレーション力とリサーチ力により、計画や構想は安価に量産されるようになります。その結果、「計画だけ立てて言いっぱなしではなく、その構想を実際に作れる、または作れるチームをデザインできる人の価値がどんどん高くなっていく」と指摘。
計画を実行に移せる「行動力」の価値が高まり、プロジェクト実践者はより「クリエイター化」していくと予測しました。

最後に清水さんは、AI時代における“ふりかえり”の重要さについても言及しました。

「AIによる“正しそう”計画がたくさん生まれる時代に、構想や計画自体の独自性ではあまり差が生まれなくなってくるでしょう。実際にプロジェクトを進めていくチームのメンバーだったり、推進プロセスでどういうことが起きたかというのが、プロジェクトのアウトカムの差に今よりも大きく反映されてくるのではないかと考えています。

プロジェクトプロセスの間での変化と意思決定の連続の中で、どういうふうに何が変わったかという変化の軌跡自体が重要になってくる。」

この問いに対してGood Project Associationで進めようとしている、「継承できる振り返り」を探究する『Good Look Back Lab.』の構想も共有し、来るAI時代に向けた探究心と実践への意欲を語りました。


『AIオペレーターにならないために〜オペレーションとクリエイションの境界〜』(ロフトワーク 川原田)

続いて登壇したのは、ロフトワークのリードディレクター、川原田さんです。「共創を通じて未来につづくエコシステムを作る」を掲げる同社で、多様なプロジェクトを手がけています。

川原田さんは「AIオペレーターにならないために」というテーマを掲げ、AI活用がもたらした功罪について、自身の経験を語りました。

社会課題を分析し、理想の社会への移行を設計する「トランジションデザイン」のプロジェクトにおいてAIを導入。従来、数週間かかっていた文献リサーチと課題構造の分析が、わずか1〜2週間(感覚的には2時間)に短縮できたという驚くべき経験を共有します。

しかし、その効率化の裏側で、ある違和感が生じたと言います。

「AIに考えるところを任せていくと、徐々に『創造的にプロジェクトをやっている手触り感』があまり感じなくなってきたんですよね。自分はクリエイティブディレクターと名乗っているけど、何にクリエイティブなんだろう、とか。また、関わっている人たちがみんな面白くなさそうな状態にどんどん落ちてきたという感覚がありました」。


川原田さんはこの状態を「正解探しモード」に陥っていたと分析。AIへの依存度が高まることで、偶然の発見や驚きといった「探索行為」が減り、創造的なジャンプが起きにくくなっていたのです。


では、どうすればAIを「競争パートナー」にできるのか。川原田さんは3つのポイントを挙げます。

  1. 自身で仮説を出し、AIを検証・壁打ち相手に使う
  2. 思考や議論を「図解化・構造化」し、抜けや違和感を見つける
  3. 自分が面白いと思ったことをチームで共有する

AIは正解“っぽい”ものは見せてくれる。しかし、「創造を始めるのはいつだって自分がどう思うかという人間の意志ではないでしょうか」という言葉で締めくくり、AI時代における人間の意志と創造性の重要性を力強く訴えかけました。


『AIで「感動」を創り出す。クリエイティブの最前線から見たプロジェクトデザイン』(Konel/ai-ai 荻野)

最後に登壇したのは、株式会社Konelの荻野さん。AIと人類の進化と余白を探索するチーム「ai-ai(あいあい)」を率い、AIを使った数々のプロジェクトを実際に制作している専門家です。

荻野さんは、現在のAIの使われ方が「便利とか代替とか効率と言われるこういった領域にAIが使われている」ことに課題意識を持っていると語ります。そして、自らのチームではその逆、
「便利ではなく感動、代替ではなく拡張、効率ではなく創造。こういったことに、もっと生成AIだったり人工知能って使えるんじゃないのか」
という仮説を掲げ、活動していると述べました。

その言葉通り、未来の自分からビデオレターが届く『FUCHAT』」や「現代に蘇った蔦屋重三郎が編集長を務めるフリーペーパーなど、効率化とは一線を画す、人の心を動かすユニークなプロジェクトを次々と紹介しました。

「フューチャット 未来からのAIビデオレター」(株式会社Konel)

さらに荻野氏は、AIプロジェクトを成功させるための実践的なプロセスと思考法を解説。AIを「もしもボックス」と捉え、予測不可能な価値を探求すること、そして仮説検証とプロトタイピングの重要性を強調しました。

特に印象的だったのは、「AIを中心とした企画をするときには、UX/UI設計は敢えて後回しにする」というポイントです。最初に使いやすさを設計してしまうと、人間のバイアスがかかり、AIが持つ本来の能力(ケーパビリティ)を最大化できないことがあると指摘しました。

また、情報セキュリティ、ライセンス、著作権といった「乗り越えるべき3つのコンプライアンス」の重要性も解説。技術的な視点と倫理的な視点の両方を持つことの必要性を説き、「生成AIのプロジェクトは本当にチャレンジの連続だと思います。でもやはり人間がプロジェクトを生み出していると思うので、そこに情熱を持って勇敢な挑戦をするプロジェクトデザインをしていけるといい」と、挑戦するプロジェクトへエールを送りました。


三者三様の視点から語られた「AIとプロジェクトマネジメント」。清水さんが描いたのは、AIによって役割が再定義されるプロジェクト実践者の職能やキャリアの未来像。川原田さんが分析したのは、効率化の先にあるべき人間の創造性のありかた。そして荻野さんが示したのは、AIを使って新たな感動体験を創り出すクリエイティブの実践でした。

アプローチは異なりながらも3つの話に共通していたのは、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、その特性を深く理解した上で、プロジェクト実践者の役割や価値を再定義しようとする姿勢です。

その後、クロストークで来場者とも対話をした後、懇親会へ。来場いただいた方も含めて、AI利用の実践についてのエピソードや悩み等の会話が飛び交いました。

AIとの共存が当たり前になる未来において、プロジェクトを成功に導く鍵は、技術を使いこなすスキルだけでなく、「自分たちは何をしたいのか」という強い意志と、人間ならではの情熱にあるのだと再確認する機会になりました。


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